わたしが出したラフの描かれた紙を見て、仁美は眉根を寄せた。

「うーん。何かぴんと来ないのよね。悪くはないんだけど。もう少し考えてみて」
「分かった」

 抽象的な物言いに、わたしもはっきりしない口調で答えた。

 ただ、その心境は少し違った。ピンとこない、そう彼女が言った理由がわからなくもない。わたしも同じ感覚だ。

 けれど、今出した以上のデザインの案が思い浮かばなかった。

 今週中には大まかな案を出すことになっていて、来年の初めが最終的な納期だ。

「休みの日、リフレッシュしている? 気負いすぎじゃないの?」

 仁美はそう笑みを浮かべた。

 雄太と別れた翌週も半ばを過ぎた。仕事中に涙ぐむことはあっても、親にも周りにも気づかれた様子はなかった。

 親に別れたと言おうか迷ったが、婚約破棄をした時点で別れたとも同じような気がした。そのうえ、親としては娘の失恋話を聞きたくないだろうという判断から、両親にはもう雄太の名前を出さずに、終了してしまうことにした。

「リフレッシュといっても何をしたらいいのか分からない」

「彼氏とデートしたりとか」

 わたしはその言葉にドキッとした。誰にも雄太と別れたことを言っていない。もちろん、仁美にもだ。わたしの婚約破棄を笑い話としていた高校の友人はともかく、仁美は毎日会うし、婚約破棄について言っていないことから、早めに話をしておいたほうがいい気がした。