立っている事に疲れたのか、津田部長は近くにあったブランコに腰を下ろし、キィ…キィ…と漕ぎ始めた。それを、なんとなく目で追う。

「あの……」

「なぁに?」

「ひとつ、伺っても宜しいでしょうか?」

「ええ」

「津田部長は……その……」

なんて言ったらいいのか言い淀んでいると、津田部長が察した様に言った。

「ゲイよ」

ど直球な言い方に、私は少しドキッとする。

「そう、なんですか……」

別に津田部長に恋愛感情を抱いていた訳ではなかったのだが、少しガッカリした様な、なんとも言えない感情が沸き上がる。

「普通の人には、理解し難いでしょうね。……まあ別に?理解して欲しいなんて、思ってないんだけど」

切なく笑う横顔が、なんだか淋し気で胸が痛くなった。

「あのっ……」

言いかけた時、不意に私の携帯が鳴り、一瞬ビクッと肩が震えた。

(またか……)

こんな時にかかって来るなんて、なんてタイミングが悪いんだろう。もう仕事も終わっているんだから、電源を切っておけば良かった。

「……出ないの?」

携帯を見る素振りも見せない私に、津田部長が首を傾げる。

「はい」

「急ぎの連絡かもしれないわよ?」

「いえ、大丈夫です。急ぎでもなんでもないですから」

見なくても、相手は誰だか分かってる。

今日のイライラの原因は、この着信相手のせいだった。