朝7時、玄関前。
 彼はいつも、この時間には家を出る。
 
「じゃあ、行ってくるから」
「ん」

 ちうっ。
 彼は、爪先立ちの私の唇に軽くに触れるキスをした。
 
 寂しがりの私は玄関先まで一緒に出、彼をお見送りしていたのだが、いつしかそれが、このちょっぴり恥ずかしい習慣と変わっていた。

 ヒラヒラと彼の背中に手を振っていと、彼が一度振り返った。
「?」
 忘れ物かな?とは思いつつ…

『どうしたんダイ?
 寂しそうな顔をして…よし、今日は1日一緒に居てあげやう』
 なーんていう言葉を期待してしまう自分がいる。

 と、彼の視線がさりげなく私の上から下までをなぞった。
 なんだ…服装チェックしてるのか。

「よし」

 ガックリきている私をよそに安心したように頷くと、彼は再び踵を返した。
 マンションの、鉄の扉がバタンと閉じる。

 彼が行ってしまった後の、しんと静まり返った家が、今の私にはとても寂しい……

 考えてみると、これまでの私には、一人になった時間など、殆んどなかった。

 この時間にはもう、課の皆と一緒にいて、和気藹々と喋っていたは、オオカミさんに怒られて…

 そうだ、オオカミさんと一緒にいた時間って、随分と長かったのだ。
 下手をすれば、今よりずっと。

「………ぐすっ」

 い、いけないっ。
 私は慌てて、目頭に滲んだ涙を拭いた。

 私ってば何を考えてるの?
 

 もしかしてこれって、『マリッジブルー』ってやつかしらん?

 私ってば、意外に繊細。