「テメェは大事な人質だ。行かせるかよ」


耳元でそう囁いたのが誰なのかは顔を見なくても直ぐに分かった。


「シン……ッ」


──今、一番会いたくなかった男、シン。



「残念だったなぁ、俺で」


私の耳元でクツクツと愉快げに笑うシンに負の感情が湧き上がる。


「……っ、離して!!」


その中で一際強かったのは不安ではなく焦りだった。


もうすぐ十夜達が来ると分かってる。けど、焦らずにはいられない。

だって、直ぐそこに遥香さんが居るから。


相手は大人数だ。いくら充くんが傍に居るとしても太刀打ち出来る訳がない。


それなら……。


「充くん!遥香さんを連れて逃げて!!」


こうするのが一番良い。
今ならまだ逃げられる。


「凛音ちゃ──」

「早く!!」


逃げて!!


「……っ、遥香さん、行きましょう!」


その場に留まろうとする遥香さんの腕を充くんが乱暴に引く。

けど、遥香さんは首を振るばかりで動こうとはしなかった。

そうこうしている内に、あたしを囲っていた男達の何人かが遥香さん達の方へと駆け出して行く。


「遥香さん!早──」

「五月蠅い。黙れ」


背後から口を塞がれて、突然の息苦しさに動きが止まった。

口を塞いだのは勿論腕を掴んでいたシンで、それを待ってましたと言わんばかりに両脇に居た男達があたしの腕を背中に回す。


「……っ、クッ」


紐らしきもので拘束してくる男達。


当然力で敵う筈がなく、手首だけじゃなく足首も縛られてしまった。

最後には口にガムテープまで。