…今日は3月1日。かすみは、いつもの様に着飾って、フラワーガーデンを訪れた。

本当の姿を見られてしまったのだから、着飾る必要はもうないのに、どうしてまた着飾るのか?

…かすみは、こちらが本当の自分の姿だと言いたかったのだ。…少しでも、薫に釣り合う自分でいたかったから。

「…いらっしゃいませ。今日は、どんなお花をお求めですか?」

「…そうですね…ぁ、チューリップ」

まだ蕾のピンクのチューリップを見つけて、思わずかすみは微笑んだ。

「…まだ寒いですが、3月初めてのチューリップなんですよ」

「そうなんですか。寒くても、春が近づいて来たって感じですね…」

「…チューリップって食べられるって知ってました?」
「え⁈」

薫の言葉にかすみは驚く。その反応が可愛くて、薫は、クスリと笑う。

「チューリップの球根は、葉が変形したもので、食べられる…富山県のとある市では、花弁で作ったジャムもあるらしいですよ」

「へぇ〜、そうなんですか…美味しいのかな?」
「…さぁ、私も食べたことはないので、なんとも」

2人は目を見合わせて笑った。

「このチューリップと、かすみ草で花束をお願いします」
「かしこまりました。…あの」
「…え?」

「一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」

花束を作ると、それをかすみに渡した。

「…どうして、毎月同じ日に、花を買いに来るんですか?…あ、答えたくないなら答えなくていいですから」

「…母の」
「…え?」

「…月命日なんです。1日が」

かすみの言葉に薫はハッとした顔をした


「すみません…聞かない方が良かったですね」
薫の言葉に、かすみは微笑み首をふった。