『カオリちゃーん?起きてるぅー?起きないと、僕、悪戯しに行っちゃうよぉ...カオリちゃーん?おき』

 耳元に置かれたアニメグッズの置時計が体を揺らして私に囁いた。人気だと言われる男性声優の音声が録音されているのだが、アニメの一節でこの男性声優演じる主人公がヒロインに語り掛けている部分を抜粋されているので目覚まし時計としては機能していないと言える。

 私はアニメの趣味は無いのだが、アニメ好きな金持ちのボンボンから“傷が付いたから”、いわゆるそれらのグッズを大量に貰ったのだ。

 しかもヒロインの名前が私と同じ“カオリ”だった為、まるで私自身に言われているようで気に入らなかった。何より、まるで時計を通して男から性的な欲求をされている様な不愉快さがあった。それを耳にするだけで身体を汚されている様な気がした。

 とにかくこの機械を私は好いていない。なら携帯のアラームを使えばいいと思うし、そもそものところわざわざセッティングしなくとも勝手に身体は起き出してくれるのだが、時計を捨てるのもアラームを設定するのもめんどくさいと感じられ、最初のまんまにしている。

 目を閉じると浮かんでくる、風になびく青々とした草原。何処からか小鳥のさえずりが聞こえてくる。私に影を作り囁きかけるのは寛大な入道雲____ではないな。...男?

『逃げないでよ』

 「うぇ、やだねぇ、なんて卑猥な」

下から上がってくる酸っぱいものを唾で押し込んで体を起こした。