「おいっ...起きろ!」

 私は眠り姫さながらロマンチックに...とまではいかず、どうやらうるさい男の声で目覚めたようだ。

 しかしまだ目を開けてはいない。

 男は私の身体を抱いていて、未だに叫び続けている。

 顔が近いのか、ふわふわの髪がくすぐったい。

 「うるさいな。てか誰?」

力のない声で口の中で呟く様に訴える。そして目を開く。

 「良かった、生きてる!」

何故いちいちこの男の発言はこれまでにもうるさいのだろうか。

「そりゃあみんな生きてるよ」

 身体が冷えている。どうして?さっきまであんなに暖かかったのに。男の顔で狭くなった空を見上げると、暗雲が立ち込めていて、ちらほらと小雨が降っている。この様子では、雨は強くなるだろう。

 「冷えてるし死んでるかと思った!」

何故その様なことを嬉々として言うのだろうか。

「赤ちゃん産めなくなっちゃうよ!」

 余計なお世話、心の中でどつく。ずっと黙りこんでいた私に、男は呆れた顔をした。

「家、どこ?」

先ほどの大声が嘘の様に優しくやわらかな声で囁く。

 痛いほど真っ直ぐな目で私を見るから意地悪したくなってしまう。

「分かんない」

 男は何も言わず目を見開いてじっとしている。

「分かんない」