それから放課後まで、あたしとエレナは藤吉さんを視界に入れないようにしてやり過ごしていた。


彼女を視界に入れてしまうとどうしてもその手に注目してしまう。


そして昨日の出来事をなにもかも、鮮明に思い出してしまうからだ。


放課後になってようやく教室から解放される時間が来ると、あたしとエレナは走るようにして学校を後にしたのだった。


2人で帰っている間も、意識的にオークションについての話題は避けていた。


楽しいテレビ番組や、おいしいスイーツの話で盛り上がる。


そうしていると気分は紛れてきて、家に着く頃にはいつも通りに空腹感を感じられるまでになっていた。


エレナを別れて家に戻ったあたしはリビングでテレビ番組を見ながら、手つかずのお弁当を広げた。


今から食べると今度は夕飯が入らなくなりそうだけれど、食べられる時に食べておこうと思ったのだ。


テレビ番組をラジオ代わりに聞いていると、不意に聞いたことのある人の名前が出てきてあたしは顔を上げた。


テレビの中にはつい数か月前まで同じ学校に通っていた石澤祭(イシザワ マツリ)先輩が写っていた。


相変わらず可愛らしい容姿をしていて、テレビに映っている今も昔も変わらないことがわかった。


「ついに芸能界デビューかぁ」


石澤先輩が本気で芸能界を目指しているというのは、校内の誰もが知っていることだった。