で、今に至る。
「あああ…どうしよ~」
「大丈夫だ、落ち着いて探せ」

 主のいない社長室に、2人して這いつくばること15分。

「あ、あ、ありましたぁ~~?課長!」
「ホントかっ!赤野っ」

 ソファの後ろ、そこは丁度、セレモニー時に燈子が立っていた箇所だった。

 絨毯の長い毛に隠れていたのが、ブラインドから覗いた太陽に一瞬キラリと光ったのだ。

 燈子はそれに飛び付くと、誇らしげに掲げてみせた。

 破顔する大神。

「やったな、赤野!」
「オオカミさんっ」

 喜びのあまり、思わずひしと抱き合った。

「きゃ、す、すみませんっ」
「す、すまんっ」

 慌てて離れ、どぎまぎすること十数秒。

 過呼吸から漸く我に帰った大神は、真顔で指令した。

「よし、急げ赤野。脱出するぞ」
「はっ!課長」

 2人が扉にススス…と走り寄った時だった。
ふと、大神が足を止めた。
 「!」

 カツカツカツ…

 コツコツコツコツ…

 2つの異なる靴音と、厚い扉さえ抜けるような、バリトンの笑い声が聞こえてくる。

 大神の足がピタリと止まった。

「……まずいな」
「? どうしました課長、はやしないとく…」

「来いっ!」
「え、え?」

 大神は、燈子を出口とは逆に引っ張った。
 そうして、執務椅子の後ろのウォークイン・クロゼットの中に彼女を押し込むと、自らも身を潜めたのだった。