「弘人くん、弘人くん。まだ彼女いないんだってね?」


母の一番上の兄に当たる叔父からそんな確認をされたのは、3月のお彼岸で叔父の家に親戚一同で集まった時だった。


あー、始まった。面倒くせ。


はぁ、と深いため息をつきたいのをどうにか我慢して、コックリうなずいて見せた。
よりにもよって親戚が集まってるこんな時に、何が悲しくて彼女がいないことを公言しなくちゃいけないのか。
叔父は昔から他人のそういうプライベートなところをかき乱す性格だ。


「別に欲しいとも思ってないし」

「30にもなって何言ってるんだ!幸恵が心配してるんだぞ、弘人は一生独身だわ~、って」


幸恵とは母の名前。
よくもまぁ兄妹揃って好き勝手に人の一生を決めてかかるとは、似た者同士とはよく言ったもんだ。


「その年まで彼女がいたことが無いっていうのは、これから恋愛するにしても大変だぞ」


昼間からビールを飲みまくっているというのも、こうやって俺に絡んでくる原因のひとつだ。
よくそんなんで銀行の支店長だかなんだかが務まるな。
飲み会で若い女の子に絡んで嫌われるタイプじゃないのか、叔父さん。


目の前にあるマグロの刺身をパクパク食べて軽く無視していたら、叔父がサラリと予想もしていなかったことを口にした。


「部下の娘さんでね、弘人くんと同じ独身でなかなか素敵な子がいるんだよ。その子と見合いでもしてみたらどうだ」

「………………はぁ?」

「2人を頭の中で並ばせてみたら、いやぁ思ってたよりも絵になったからね。いいと思うんだよね~、俺は」

「40歳になっても彼女がいなければ引き受けるよ」


いよいよ本気で面倒になってきて、さっさと隣の部屋にでも避難しておこうと箸を置いて立ち上がろうとしたところへ、叔父の何かを読み上げるような声がした。


「4月17日の日曜日、仕事は休みを取りなさい」


食器を重ねて片付けようとしていた手を止めて、叔父の顔をガン見する。


「仕事だよ。4月の日曜日は休みなんて取れるわけ……」

「じゃあ昼間だけ空けておきなさい」


ふんぞり返って当然のように命令してくる叔父を、憤然と睨んだあとで隣に座る母の顔へ視線を移した。
「エヘッ」とでも声が聞こえてきそうなほど、茶目っ気たっぷりにウィンクしてきた。


バカじゃないのか、この兄妹。
勝手に見合い話を決めたってことか。