* * *

「いただきます。」
「いただきます!」

 自分で作った料理もだが、どんな料理に対してもきちんと手を合わせて、一度目を瞑る。一口目は、大口でばくりといく。見た目通りと言えば見た目通りだ。決して下品ではないが。

「どしたの?美味しくない?」
「ううん。健人のご飯が美味しくなかったことなんてない。」
「良かった!」

 健人の料理は美味しい。それに、健人との食事は楽しい。今日あったことをお互いに話して、笑ったり、つっこみをいれたり、ボケてみたり、怒ってみたりする。笑っていることが多いから、楽しいのだろう。それに、健人がやっぱり面白い。やっぱりどうしても、大型犬を飼っている気持ちになってしまう。食べっぷりも、自分への懐きっぷりも。

「2015年もお疲れさまでした。」
「何、突然。」
「え、だって今日仕事納めでしょ?」
「それを言うなら健人だってそうでしょ。」
「でも俺はたかがバイトだし。」
「仕事に優劣はないでしょ。どちらも日本の通貨を稼いでいることに変わりはないし。」
「それはそうだけど、社会的な身分が違うでしょ?」
「そう?正社員と非正規雇用ってこと?」
「はっきり言えばそうだね。」
「それは年齢の話じゃない。健人だっていつか正社員になるかもしれないし。」
「…頑張ります。」
「就活かー。でもスーツが面白いくらい似合わないんだよね、健人。」

 一度だけスーツ姿を見たことがある。あまりの似合わなさに本人を目の前に大笑いしてしまったことがある。

「…ほんっとにひどいからね、綾乃ちゃん。似合わないなんて言われたこと、なかったんだけど。」
「だって、なんかより幼く見えるんだよ。普通かっこよくなるじゃん、スーツ着ると。なのに健人が着るとちぐはぐなんだよ。」
「…まぁ、俺はかっこいい、じゃなくて可愛いってばっかり言われるけど。」
「はいはい拗ねない。可愛いも褒め言葉です。最上級。」
「…たまにはかっこいいも欲しいです。」

 しゅんとうなだれると、主人に怒られて縮こまった小型犬みたいだ。身体は大型犬サイズなのに。それもまたちぐはぐで、綾乃は小さく吹き出した。