何気なく付き合ったり、そのままずるずると関係が続いたりするのが世の常だと綾乃は思っている。例にもれず、自分もその一人だ。いや、決して何気なく付き合い始めたわけではないのだけれど。

「…おはよ、綾乃ちゃん。」

 自分の隣でふにゃりと柔らかく微笑むこの男(20)。柔らかい焦げ茶の髪がふわりと揺れた。

「…あんたねぇ…毎回思うけど、その寝癖は20歳としていかがなものなわけ?」
「寝癖なんて年関係ないよ…ふわぁ…。」

 大きな欠伸を一つこぼす。眠たげなのに綾乃の背中に回った長くて強い左腕の力は一向に緩む気配がない。彼、咲州健人(さきしまけんと)は綾乃の4歳下のペット…もとい彼氏である。

「って起きなきゃ!朝ごはん作らないと!」
「おねがいしまーす!」

 朝、昼、晩の三食を作るのは健人の役目である。なぜそうなったかはよくわからない。無理矢理押し切られた形で決まったような気がする。綾乃も料理ができないことはないが、健人の方が上手いのだからこれが適材適所というものだろう。

「綾乃ちゃん、ご飯とパンはどっちがいい?」
「そう言えばそれ、昨日聞かれなかったね。」

 健人は律儀な奴なので、必ず寝る前にそれを聞いてくる。それなのに昨日はそれがなかった。…どうして、だったのだろう。

「昨日は綾乃ちゃんがぐったりだったでしょ?家に帰ってきてすぐにベッドにばたんだったよ。」
「…あれ、そうだっけ。」

 昨日は確か職場の忘年会だった。やたら飲まされたような気がする。

「思い出した?」
「…少し。あたし、化粧したまま寝たの?」
「うん。でもほら、ちゃんと落としておいたよ。」
「…ありがとう。」
「いえいえ。どういたしまして。」

 確かにゴミ箱にはメイク落としが一枚、捨てられている。これはできた忠犬だ。