後日、陽は副長である土方の部屋に呼ばれ、最終決定者である近藤から新撰組入隊を許諾された事を言い渡された。


当然のごとくまだ信用されていない陽は、普段の隊士が入隊する時にしないようなことまでさせられた。


横長に置かれた半紙に自ら筆を握り、局中法度を書かされ、更に朱色の液体で人差し指の指紋まで押させられる。


全く書き慣れていない幼児が書くような不恰好な字を、後ろから幹部の面々は様々な心情で見ていた。


土方からは、斎藤と試合をして負けたから入隊する。と簡単な説明だけはしたが、それだけで納得できるわけがない。


当の土方もこの様に無理な形での入隊は出来るだけ避けたかった。陽が新撰組に尽くす可能性が低いからだ。


とは言っても、これ以上監視だけの毎日を続けていたって“何か”がなければ、進展がないことだって承知だ。


だとすれば今回の斎藤が独断で行った事は、一つの導くべき答えだったのかもしれない。


最終的な決定権は近藤だったが、この事について一番脳を使っているのは言うまでもなく土方だった。


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監視されていた部屋が陽の自室となり、解散後陽は真っ先にそこへ向かった。


監視続きであまりいい部屋ではないが、二週間いただけあって、妙に落ち着く。


少なくとも蔵の中で一夜を明かすよりは、自分の弱さを反省することも、変な気が起きて死にかけることもなくマシだろう。


つい昨日まで付きっきりだった監視が嘘のようで、障子は全開まで開いており、風通しの良い部屋は開放感を与えてくれる。


……ただ、上からの視線がなければ、だが。


下手な監視がまだ天井裏で続いているらしく、時折不自然に上の方からギシッと音がしたりする。


(このままの方がいいか)


気づけばもっと厄介な監視がつくに違いない。それなら、この下手な監視に気づかないふりをしていた方が、いつ見られているかもわかる。