「多勢でお相手をするのは大目に見ていただきたい。これでも少ないぐらいだが、精鋭の武士を用意したつもりだ。…先日の池田屋では大変お世話になったとか…そのお礼を今、返させていただきたい!」
 どうやら池田屋で討ち入りに遭った藩士の仲間らしいがそのときは私はまだ沖田に入れ替わっていたわけではないから世話になったつもりも関わり合いを持ったつもりもない。ただ、私たちが新選組の沖田と斎藤ということである理由だけで狙って来たのだろう。
 編笠を被った武士たちが刀を次々に抜いて銀光りする刀を目にするとこれから斬り合いが始まるんだ、目の前で、しかも自分も含めた戦いが始まる!と自分の腰元にも差してある刀につい手が伸びそうになるがそれを止めるかのように斎藤さんが声を掛けてくれた。
 「お前は下がっていろ。ここはオレが片付ける」
 その言葉を聞き終えると同時ぐらいに道端に一人倒れる編笠を被った人物がいた。もちろん彼は斎藤さんに斬られたのだ。斎藤さんの左手に持つ刀には倒れている男性を斬った証拠に血が滴り落ちている。
 それからは私はただ黙って傍観することしか出来なかった。いや、正確には手足がまるで地面に張り付いてしまったかのように動くことが出来なかったのだ。
 それはまるで時代劇の1シーンのようであっという間の出来事だった。斎藤さんに無駄な動きは一つも無く、一人一人を確実に斬り地面に伏せさせていく。一撃必殺、そんな言葉がとても似合う斎藤さんの戦い方だった。
 確実に急所を斬られた武士たちは地面に伏せるとぴくりとも動く気配は無かった。
 「…大丈夫か?」
 人を斬るのは初めて見て、さすがに精神的に怯えてしまったらしい私の身体は小さく震えていた。単に斬り合いを目の前で見ただけで震えているのではない。人を斬った証であるように斎藤さんの着衣や頬には返り血が残っていることも目の前で斬り合いが行われていたことを痛感させられた。
 現代に生きる私が目の前で人を殺される場面に出くわす機会なんてそうそうあるものじゃない。寧ろ周りの人だってそうそう目に出来るものではないだろう。
 先ほどまで楽しく会話を交わしていた斎藤さんだったのにいざ刀を抜いて戦地に立つとまるっきり別人になってしまったかのように冷たい人間に見えてしまった。下手に動けば私も斬られるのではないかといった不安さえ抱くことに肩が震えてしまった。
 「……こういった場面に出くわすのは初めて、らしいな」
 「…あ。うん…人を斬るのも斬られるのも初めて見たよ…」
 「オレは、オレたち新選組はこういった汚い仕事をする集まりでもあるんだ。決して格好良くなどないぞ」
 「!そ、んなことは…」
 「無理をしなくても良い。女が慣れぬ場面を目にして怯えないわけがないだろう。すまないな…オレが外出を促したばかりに妙な場面にも出くわしてしまった」
 斎藤さんは何も悪くないのに謝罪されるととても胸が痛む。
 屯所の外に出てみたいと言ったのは私のほうだし、甘味処での時間もとても楽しいもので今まで抱え込んでいたものを吐き出すことも出来て肩の力を抜くことが出来た。それに何よりも悪いのは襲ってきたこの武士たちだ。
 さすがに命まで取るのはやり過ぎなんじゃないかとも思われたがこのやり方が幕末の世なのだと改めて考えさせられた。