教室の窓から見える、誇らしげに薄紅色の花びらを満開にさせている桜。

入学後、7日目。

出来たばかりの友人たちとの会話に花を咲かせたクラスメイトたちを横目に、私はひとり本のページをめくった。


「昨日さぁ、変な人が友達追加されてたんだよねぇ」

「あっ、アサミもそれ、前にあった。メッセージ送ったりしないほうがいいよ。詐欺かもだよぉ」

「マジ!?ブロックしといてよかったぁ」


昨日買ったばかりの新刊の内容に、雑念が混じる。


「ちょ、見ろ見ろ!ニーナちゃんが、やっと写メくれたんだけどさ」

「やっべ、可愛い!いや、でもこれ加工しすぎじゃん?こんな黒目でかいわけねーし。カラコンじゃね?」

「ばっか、ひがむなよ。ニーナちゃんは、元がいいんだって」

「いーや、これは、ぜってぇ詐欺写だ!」


教室の雑音の中で、私は、本に向けていた視線を、ある人物へ移動させた。

“彼”は、まるで自分の家のリビングにでもいるかのように、机に突っ伏して、くつろいでいる。


……理解できない。

どうして気にしないでいられるのだろう。


私、音無紗帆(おとなし さほ)は、再び文庫本へと目を戻した。