外は行き交う大勢の人びとで溢れかえっていた。

夫婦や子連れの老人の笑い声とどこから聞こえてくる太鼓の音は、さっきまでの居酒屋の中とは全く別世界の様相だ。


『何や?矢加部はんは、京の祭りは初めてか?』


物珍しそうに周りをキョロキョロしている矢加部の様子に、"ユメ"と名のった天女はクスッと笑う。


『ああ、京を訪れるのは初めてでね。
噂には聞いていたが、ホント華やかな場所だねぇ…』


『なら、今日はワテがたっぷり案内したるわ。
助けてもろたしな』


齢は二十代半ばかまだ若くも見える。
薄紅の唇と白い肌に滑らかで長い黒髪、この色づく街の雑踏にまみれていてもユメの姿は目立っていた。


浴衣の帯から紐でぶら下げた刀を揺らし、羽織をはためかせ颯爽と歩く美しい侍に、道行く人々は誰もが振り返って目を奪われている様子だ。


(まさか、着いた初日にこんな京美人を連れて歩けるとは思わなかったねぇ…)


生まれも育ちもこの京都と言うだけあって、ユメはすらすらと小道を抜けて矢加部を色んな場所へと案内してくれた。


矢加部の心は旅の疲れもすっかり忘れて心踊る思いで一杯だった。