…それからの凛の行動は早かった。

電話の相手を新に聞かれたが、適当な嘘をつき、新の制止も聞かず、凛はその場から走り去った。

⚫︎×駅は、ここから以外に近かったが、行く気もなく、凛は帰るつもりでその駅に来ていた。

(…見つかりませんように)

と、心の中で願いながら、凛は駅の構内に入ろうとした。

「…ヒッ!」
「…5分遅刻」

「…ど、どうも」
「…俺に会う事なく帰るつもりだったのか?」

「ま、まさか、そんな」

肩を掴まれ、逃げられなくなった凛は苦笑いを浮かべた。

「…ところで、私なんかに、なんの御用でしょうか?」
「用が無ければ、呼び出したらダメなのか?」

「…いえ、そういう訳ではないんですが」

(今日は何かの厄日だろうか?男運が大凶とか?)

そう思うと、溜息しか出なかった。

「…飯は?」
「…食べました」

「…じゃ、遼のとこ行こう」
「…え、ぁ…」

(なぜ手を握る?)

「…須藤課長、なぜ手を握るんですか?」

凛の質問に、くるりと振り返った須藤課長は真顔で言った。

「…逃げないように」

その答えに、思わず納得してしまった凛であった。