急いでコピー機に走る私の肩を、ポンと叩く手にがあった。

「ドンマイ、トーコちゃん」

今時『ドンマイ』は無いだろう。

「熊野さん」

しかし今の私にとっては、彼の笑顔が何より有り難い。

はー、癒される。

彼は熊野主任こと、熊野吾朗さん28歳、隣接のシマのナンバー2の技術者である。

学生の頃、アメフトをやっていたという彼は、ガッチリした大男で、その癖スイーツ大好きという、可愛い先輩社員。

体育会系の爽やかさと、前時代的なセンス、鷹揚さを併せ持つ彼は、リーダーに痛め付けられる私をいつも労ってくれる。

密かに、
『もしかして、私に好意を寄せてくれている?』
などと、自惚れてみたりしたこともある。

どこかのパワハラ上司とは大違いであるが、何と二人は同期で仲が良いそうだ。

私は確信する。
いくら男前が劣ろうと、もし結婚するならこんな人がいいと…


「赤野!305会議室!5分後!」
「…うわっ、は、はひぃ!」

遥か向こうから飛んでくる怒声に、白昼の夢想は打ち消され、私は急いで作業に戻った。