翌日、城内では、昨夜の佐々本家の一件が噂される。

「佐々本の屋敷に現れた賊を、柳生の達人が退治した」という噂が、あっという間に広まった。

それは城内だけでなく城下にも流れ、柳生の強さが民衆に知れわたることとなった。

それから数日が過ぎた、戌の下刻(午後八時ごろ)。

柳生屋敷の傍にたたずむ影が、ひとつ。

歳は四十ほどの町人風の男が、懐に手を入れながら、まわりに目を光らせる。

(まいったな)

男は、自分の主人の言葉を思い出す。

『柳生が邪魔なら、柳生を先に片づけてこい!』

主人に「平助」と呼ばれる男は、そう言われてここまで来たのだが

(柳生とは関わりたくねえんだけどなあ)

やる気が起きない。

佐々本の屋敷で、自分の手下二人をあっけなく始末された彼は、さすがに柳生が相手では…と、絶望の念を抱く。

主人から金をもらっているが、これ以上犠牲を増やしたくはない。