屋敷の客間に、茶が二つ運ばれる。


「おかまいなく」


利巌と向き合う客人は、そう言う。

歳のころは三十代後半に見え、体格はふつうである。

しかし、頬が痩けて顔色が良くない。

初対面であるが、客人は利巌のことを知っている。

だからこそ、彼は利巌を訪ねてきたのだ。

身なりからして、城内で働く人であることは、利巌にも判った。

客人が名乗る。


「拙者は、佐々本久左衛門(ささもとくざえもん)と申します」


自己紹介する彼は、やはり城勤めの役人だった。

三ヵ月ほど前に、念願の男子が産まれたという。

それにしては、表情が暗い。


「佐々本殿、いかがなされた」

「実は、柳生殿に相談したいことが…」


佐々本はそう言うと、懐から一通の書状をとりだす。


「これを見てくだされ」


利巌は書状を渡され、それを読む。

そこには、『佐々本家の家宝を頂きに参る』と記されていた。