靴を洗い終えた花音は、塀を乗り越えて家に戻ろうとしたのだが、拓海に止められた。

 仕方なく、門から帰ると、兄が呑気に木陰で、ハンモックに揺られていた。

 今風のお洒落なハンモックだ。

 いつか店で見たことがあるが、確か、結構高かった、と思いながら側に行く。

「どうしたの、それ」

「買った」

 これを試そうと思って帰ってきたんだ、と言う。

「暇そうね、お兄様」
と言いながら、えいっ、とハンモックを引っ張り、自分も乗ってやろうとする。

「無茶するな、こらっ」

 一人用だ、一人用っ、と叫ぶ兄に、
「じゃあ、彼女連れてきても、乗れないね」
と言うと、

「此処に連れてくるか。
 いちゃいちゃ出来ないだろうが」
と言ってくる。

「そういえば、お兄ちゃんの彼女って見たことないんだけど」

 あれだけモテるのだから、まさか、居ないということもあるまいと思っていたのだが、そういえば、見たことも聞いたこともない。