「どういたしまして。どうぞお座りになって? 私も聞きたいわ。直也さんのお話」

 お母さんが、おっとりとした調子でそう言うと、お父さんも、「うむ」と言って頷いている。

 もしかして、この人たちは怒るという事を知らないのではなかろうか。

「先ほどは、煮え切らない三浦さんを刺激するために、わざとふゆみさんに無礼な言い方をしましたが、正しく言えば、お嬢さんのふゆみさんは、自分を犠牲にしようとなさったのです」

え?

 神徳の唐突な説明に、俺は驚き、隣のふゆみもハッと息を飲むのが分かった。ご両親は、ぼーっとしていたけれども。

「大変失礼な事を言いますが、ここ何年もの間、桜井グループの業績は下降の一途をたどっています。経理のプロであるふゆみさんは、当然その事に気づいていたでしょう」

「そんな、プロだなんて……」

 すかさずふゆみは言った。謙遜だと思うけど。

「決算の収支が、ずっと芳しくない事は知っていますよね?」

「それは、まあ……」

「はっきり言って、今の桜井グループは大変なピンチだと思います。グループ解体の危機と、申し上げても過言ではないかと」

 うわあ。それはやばいんじゃないか。よくわからないけど。

 さすがに、会長であるお父さんは動揺するだろう、と思ったのだが、全く平然としている。大丈夫なんだろうか、この人。