桜井夫妻は窓を背にして座り、俺はその正面。神徳とふゆみは、俺の斜め左に並んで座った。

 ふと、ふゆみが俺に顔を寄せてきた、と思ったら、さっきのメイドさんが、お茶を置いてくれただけだった。俺は完全に呆けていたらしい。

 見れば、神徳は俺の安物とは違い、仕立ての良さそうな、グレーのジャケットを羽織っていた。イギリス製かな。

 あ、そうか。あのカッコいいジャガーは、神徳の車なんだな。何から何まで、全て負けてる気がする。歳は俺の方が若いと思うが、そんなものは自慢にならないだろう。すなわち俺は、敗北を認めざるをえない、と思った。

 ああ、帰りてえ。

「先ほど、こちらの三浦さんから、ふゆみの話を聞きました。それによると、ふゆみは、その……何と言うか……」

 メイドさんが退室して、すぐ、ではないが、例によってのんびりした口調で、ふゆみの父親が話を始めたのだが、何やら様子がおかしい。

「あなたが照れて、どうするんですか」

 なんと、父親は照れているらしい。娘の色恋沙汰を話すのって、男親にとっては照れ臭いものなのかな。なんか、分かる気がする。

「だったら、おまえが言いなさい」

「しょうがないわね……」

 という事で、俺は母親の言葉を待った。と言っても、俺には既に敗北感しかなく、後はいかにカッコ悪くなく、この屋敷を出るか、もうそれしか考えられない。

 実に残念な事ではあるが。