「おまえたちの話は分かったから、もう聞きたくない」

「"ふゆみさん"に関する情報でも?」

 ん? そういう事なら……

「わかった。聞くよ」

 と言って、俺は椅子に腰を下ろした。

「この間の日曜なんだけど、都心の一流ホテルで、代理店主催のパーティがあったのね」

 なるほど。広告の営業って、日曜も働くんだ。大変だなあ。

「そこで偶然見たのよ。桜井さんと……」

 なんで、そこで切るかなあ。

「彼氏を」

「彼氏? 誰だよ、それは……」

「知らないわよ」

「知らないのに、なんで彼氏って分かるんだよ?」

「だって、その人にエスコートされて、入って行ったもん」

「ホテルに?」

 上原が素っ頓狂な声で言った。その瞬間、なぜか胸の辺りがズキンとした。

「ホテルの中のレストランによ。ディナーでしょ。その後の事は知らないけど」

 ホテルへではないとの事で、ひとまずはほっとしたが、着飾ったふゆみさんが、どこかの男の腕を取り、高級レストランに入って行く姿を思い描いたら、今度は心臓のあたりがキューッと痛くなった。

 なんだ、これは。心臓の病気か?

 いや、違うと思う。今まで、こんな事はなかったから。もしかして、これが田所が言っていた、"胸がキューッとなる"ってやつなのか?

 だとすると、俺はふゆみさんが好きって事になる。しかも単なる"好き"ではなく、恋してる、って事に。

 なんて事だ。こんな最悪な形で、自分の気持ちに気づくなんて……

 次に息苦しくなり、気持ち悪くなってしまった。こっちは、アルコールのせいだと思うけれども。