さよなら、大好きな兄ちゃん


俺たち兄弟はとある田舎に生まれた。四つ年が離れていて、大層仲が良かった。二人で山へ虫を取りにいったり、川で泳いだ。
子供が少ない村で、俺たちは大切に大切に育てられた。

兄は偏差値の高い高校へ進んだ。俺はいつも兄に勉強を教えてもらっていた。兄は陸部のキャプテンで、運動神経も抜群、頭もよく、背も高かった。兄は186cm、俺は183cm。
俺は、兄が憧れであり、大好きだった。兄を慕い、尊敬していた。
しかし、俺たちにある災難が訪れた。

兄が社会人になり、俺が高校二年生になったとき。肝試しへ行く、と仲間たちと村の山の方へ行った。兄は心配だから、と言ってついてきた。山や林は慣れていて、ちっとも怖くなかったが、子供の頃からずっと気になっていた立ち入り禁止区域の看板を見つける。
「おい、そこはまずいって。帰ろう」
止める兄を無視して、俺たちはズカズカ檻の中へ歩いていった。
たしかに、危ない感じがした。ほとんどサバイバルみたいなもんで、すぐ下が浅い崖になっている。
高い鉄格子があったので、よじ登り越える事にした。
「おい、マジでやばいって!帰ろーぜ!」
「兄ちゃん、こわいのかよ!それとも登れへんのか?」
「やっぱ俺も帰ろうかな…」
「なぁここだけ見てからにしようぜ」
連れの友人たちも怖いのか、帰りたがっている。
「腰抜けめ」
俺は鉄格子をよじ登り、向こう側へ飛び降りた。すかさず、兄もついてきた。しかし、中々高く、連れはもたついている。
「なにしてんだお前らー!早く来いよー!」

その時!
「ッ!?」
俺は足を苔ですべらせ、転倒しかけたが、兄が腕でかばい、逆に兄が崖へ転落した。ズズッガッドサッドサッ…!
俺は頭を打って倒れ、痛みに耐えしゃがみこんでいた。
「やべえっっ!!落ちたぞ!!!」
俺は、何が起きたのかわからず、仲間の言う方向を見た。浅い崖の下。浅いと言っても8メートルはある。兄が、うつ伏せになり、倒れている。頭から血がドロドロ流れている。俺は頭の中が真っ白になった。
「にーちゃん…?」
兄がぶつかったであろうゴツゴツの岩は血塗れになっている。
夜明けだ。日がさしてきた。
仲間が親に連絡している。
レスキュー隊がくる大騒動になった。