ーHe side



ー-ー



重厚な響きがホールを包み込む。



続く細やかなパッセージ。



1音1音計算し尽くされたその美しく暖かいピアノの音色は、聴衆全てを魅了し、曲の世界へと引き込む。



「フッ、流石だな。」



完璧かつ、
人間味のある演奏をすることで有名な彼女。




その天才少女がコンクールにでるという情報を聞き、このホールへと足を運んだ。




引越しの準備のついでに、ライバルになりそうなやつの演奏を一回聴いておいても損は無いだろう、と思っての行動だ。




そんな彼女の演奏は、予想を超えてきた。




評判通り、いや、それ以上の完璧な演奏。
深みのある暖かなメロディーに、周りの聴衆はうっとりと聞き入っている。




ーゾクッ


全身が震える。




「助けて」




今、一瞬だが、彼女がそう言ったように聞こえたんだ。




「…なんて音楽だ。」




''暖かさ''に溢れていると言われている彼女の音楽。



その裏に言い表すことこできないような、大きな悲しみがあるように、その時の俺は確かに感じていたんだ。––––––––