「小千谷さん、大丈夫すか?」
中村が怪訝な顔で尋ねる。
「え、全然」
「なぁんか今日考え事してません?」
「いや、べ……別に」
「それにしてもプレゼン緊張したっす」
「落ち着いてやれてたよ」
そう言うとにっこりとほほ笑む。本人も少し手ごたえを感じているなら、結果というより成長の糧になった気がして微笑ましい気持ちになる。
そういうことが結果に繋がっていくものだと思っているから。
T病院のロビーで中村はあっと言って立ち止まるので、その視線を追った。
「イケメン先生っす」と小声で言う。
白衣を着ているけどモデルのように背が高くて人目をひく容姿で、中村に教えてもらわなくとも自然に目で追ってしまいそうな人だった。
中村が騒ぐのもわかるよう気もする。
「まじ天使っすね」
「それドクターに言う?」
「言いますよ。白衣の天使っす」と親指を立てた。

デスクに戻ると、課長に呼び出しをくらった。

「中村どうだった?」と課長に訊かれるけど、課長と彼女が並んで歩く姿がちらつき変な顔になってしまいそうだった。

「今日のプレゼン意外と良かったですよ。落ち着いてたし、想定してなかった質問にも的確に答えられていたし」
「そうか。俺の思い過ごしだったか」
と、この前中村の様子が変だと言っていたことを掘り返す。
「思い過ごしではなかった」と言いかけて口をつぐんだ。別に報告するようなことでもない。