7年前、のばらがいたあの町を離れた理由は、

母が男を追いかけたから。



いつぞや僕の頭を撫でた、あのロングコートの男だった。



母をいじめていたヤツと思って僕は仲良くできなかった。



でもすぐに一緒になるわけではなかったようで、結局は母と2人で暮らしていた。




新しく住んだ町は何にもない田舎だったけど、いい人が多くて友達もできた。


みんな、僕を普通の転校生として、優しく扱ってくれた。



ある日、同じクラスの力くんに声をかけられた。



『お前、とーちゃんいないんだって?』



『う、うん……』



片親なのをばかにされると思って、僕は身構えた。



力くんは前歯がかけていて、いつも教室でへらへらしているキャラ。


でもこの時は、低めのハスキーボイスで彼はこう続けた。



『だったら強くなんなきゃいけないって、うちのとーちゃんが言ってた』


『…………』


『なーちょっとつきあえよ』



僕は言われるがままに、力くんの黒いランドセルの後ろを追った。