僕が最初に彼女を見たのは大学入学後の新入生歓迎会だった。僕は希望の大学に入ることができて一安心し、サークルにも入り、「大学デビューだ!」と内心浮かれていた。

僕の名前は新藤彰。しんどうあきらと読む。 

 好きなバンドに憧れているベーシストが居るため、高校生の頃から家でひっそりとベースを練習していたことがあって、軽音サークルに入った。

 「今日はみんな来てくれてありがとう!一年生のみんな、今年は、えーっと…21、あっ、23人かな!」ここで、場に笑いが沸き起こる。

サークル長は続ける。
「23人も軽音に入ってくれて感謝してます。それじゃあまず乾杯から始めましょう。一年生の入会を祝って、乾杯!」

乾杯、という声があちこちから聞こえる。グラスを互いにぶつける音も響き渡っている。サークル長が手を叩きながら場を仕切る。

「はいはい!盛り上がる前に、まずは一年生に自己紹介してもらいましょう。名前と学科と、それからやりたい楽器、もしくはできる楽器を教えてね。ボーカルならボーカルでもオッケーです。じゃあ右端の子からお願いします。」 


 僕は初めて来る居酒屋のガヤガヤとやかましい雰囲気と、お酒の匂いと、煙草の香りに圧倒されて半ば意識が遠くなっていた。  

それに、正直に言って周囲の客がうるさすぎて、自己紹介の声は殆ど聞こえない。
 
どうやら既に右端から4番目の子が自己紹介を始めているようだった。
自分の意識を新入生歓迎会に引き戻し、自分の番がまわってきた時に何とコメントしようか考えることにした。

 「町田沙希です。学科は看護で、楽器はギターとキーボードができます。歌も歌ってみたいです。よろしくお願いします。」  

ごく普通の自己紹介…しかし、僕は一瞬で彼女のことが気になった。恋愛でいう気になるとは意味が違う。右端から5番目の子だった。

確かに顔は整っていて、色白で華奢で、黒髪ストレートのミディアムロングヘア、それだけでも僕のタイプだが、さらに微笑んだ顔は可愛いと言うには十分すぎた。

しかしその為に気になったのではない。彼女のことをもっと知りたいという直感だった。 
 

 「おーい!聞いてる?君だよ!」
隣の女の子にドン、と右肩を叩かれた。皆僕のほうを見ていた。しまった、僕の番だったんだ。

「新藤彰です。あ、えっと学科はリハビリです。それから、ベースを高校の頃から少しやってました。よろしくお願いします。」 

一気に現実に引き戻されて、慌てながら喋った。周りから笑い声がしたような気がして、何だか少し決まりが悪かった。

 町田沙希…あの子と話したい。

次々と自己紹介が進められていき、その後は先輩と交流したり、バンド結成の話をしたり、最後はどんちゃん騒ぎになったが、頭のどこかにずっと彼女の存在があった。

しかしあえて彼女のほうを見ないようにしている自分がいた。