裸足で夜の浅瀬に立つ透子(とうこ)の目が、淵を見た。

 彼女の足許からそこに向かって、だんだんと水の色が濃くなっている。

 深緑の淵は何処までも深く、今にも、そこから何かが立ち昇ってきそうだった。

 月を映してゆらめく深い流れを見ながら透子は呟く。

「私は何処にもいかないから―
 一生、貴方の側にいる」

 マボロシのように揺らめくものを掻き抱こうとするように、透子は白く輝く月に向かい、手を広げた。