午前の仕事をキャンセルして、久城さんはおばあちゃんを連れて主治医のいる病院へ向かった。

タクシーの車内で、おばあちゃんはずっと不安そうにしていた。
その不安を隠そうとずっと会話し続けていたけど、その内容は堂々巡りで、聞いてたタクシーの運転手さんもさすがに苦笑いをしていた。


…久城さんは、あたしとおばあちゃんの会話を始終黙って聞いてた。
あたしはタクシー運転手の苦笑いよりも、その沈黙の方が怖かった。


不用意な一言で、大事なおばあちゃんの世間体を傷つけた。
本人に自覚がないのは幸いだけれど、久城さんはきっと恥ずかしく思ってるに違いない。


認知症だ…と言わなければ良かったのだろうか。そしたら、こんな格好悪い姿も見せずに済んだのかもしれない。


…でも、判断が遅れれば遅れる程、症状は進んでいく。
進行を遅くする薬はどんどん出来ているのに、その力も借りずにいるのは惜しい。


少しでも長く、今の状況を続けた方がいい。
その方が、きっとおばあちゃんの為にも家族の為にもなる筈だーーー。



(ーーあたしは間違ってない…。きっと病院へ行けば分かってもらえる…)



祈る様な気持ちでいた。
でも、待ち受けていた医師の顔を見て、来るんじゃなかった…と、思ってしまったーーー。