姉のマンションに着いて部屋のドアを開けると、玄関先に大きなスーツケースが三つも置かれていた。
既に荷物はまとめられた状態で、直ぐにでも持ち出せるような準備をされていた。


「…意外に早かったじゃない!」


してやったりな顔つきで結華は奥の部屋から出てきた。


「俺はばあちゃんの面倒なんか見ないぞと言いに来たんだ!勝手に送り込まれてきたら困るからな!」


途中で電話を切りやがって…と、玄関先を上がりながら文句を言った。


「そうでも言わないと会いにも来ないでしょ!仕事仕事で海外ばかりを彷徨いて、ろくに日本に住んでなかったんだから…!」


こっちの大変さも知らずに大きな顔するんじゃないわよ…と、姉は息を巻いて反論する。
煩い小姑の様な気がしてきた俺は、「ばあちゃんは?」と話題をすり替えた。


「あっち!」


顎で指し示しす。
呆れながら顎が指す方向へ進んでいくと、白髪頭に団子をくっ付けた様なヘアスタイルの背中が見えてきた。



「…おばあちゃん、剛が来たよ」


冷たい声に振り向いた人は、真っ直ぐと俺の方へ目を向けた。


…ぱっと見、誰か分からなかった。


そこにいる老女は、俺の知ってる祖母などではなく、何処か見窄らしく下品な別人のように見えた。



「……剛ちゃん…?」


声だけは聞いたことのあるものと一致していた。
白い膜がかかったような目で、じぃーっと俺のことを見つめている。

最初は戸惑ったものの、何処となく昔の雰囲気を残している人に近付いた。