背中に温もりを感じたのは何時頃だったろう。
微かにベッドが軋んだ様な気がして、意識がふ…と戻ってきた。


その時あたしは、夜中の通販番組で見たことのある低反発マットレスの上に眠る夢を見ていた。
寝るまでずっと泣き続けてたのにベッドに横になった途端、マットレスの心地良さに一遍で眠りについてしまったせいだ。

浅くなった意識の中で、「本当にウソみたいに良く眠れてー」と、テレビタレントにでもなったつもりで質問に答える夢を見ていた。
ククッと笑い声が聞こえたのも、全部夢の中の出来事だと思っていた。



……それが夢じゃなかったんだ…と知ったのは、朝になって目を覚ました時。スッキリと晴れた視界の中に、見たこともない人がいて驚いた。



(だ、…誰⁉︎ )


ぎょっとして目を凝らした。
鼻先の丸い顔に気づいて、久城さんだと分かった。


(…そうか。引っ越したんだ…)


ほっ…として全身の力を抜いた。初めて見る『ゆる彼』の寝顔をじっくりと眺めてみようと思った。


久城さんの寝顔は、鼻の方へ垂れ掛かりそうな頬のお肉が可愛いかった。

つい抓りたくなって、なんとかそれを我慢した。

昨日の昼間、初めてキスを交わした唇が半開きになって、そこから白い前歯が覗いてる。

思わずキスしたくなる衝動に駆られて、それを一生懸命に堪えた。


規則正しく聞こえる寝息に、自分の呼吸を合わせてみた。

不思議と感じる安心感に、ほっ…と心を癒された。