「なぁ…さゆみ。」
「ん?何?」
「何で俺たち、こんな目にあってるんだ?」
「…さあ?」
今は私は、龍牙と新の2人と一緒に薄暗い空き教室で身を潜めている。
何でこうなってしまったのかというとそれは約1時間前に遡る─────。

──────────。

「…では、皆さん!覚悟はよろしいですか?」
「「「「「…………………………」」」」」
「それでは……ハロウィン楽しもうぜぇぇぇーーーーー!!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」」」」」
今日は10月31日、ハロウィンの日。私たちのクラスはその日を楽しもうと、土曜日なのにクラス全員強制参加で教室に集まっている。
強制参加といってもみんなやる気に満ちている・・・・・2人を除いては。
「「………」」
「…龍牙、新。そんな顔しないの。」
「そんなこと言われても…」
「本当にな…」
何で2人がこんなにテンションが低いかというと
「さぁ、みんな!男子と女子に分かれて着替えるんだ!」
「おっけー♪」
「イエス!マイタロナンカロード!!」
「キャー楽しみすぎる♪」
「了解した!」
みんな次々に返事をして教室から着替えに出ていく。1人変わった返事が聞こえた気がしたんだけど。
「…何で折角の休みなのにこんなめんどくさいことしなくちゃいけねぇんだよ。」
「…折角さゆみと1日中2人っきりでイチャイチャできると思ったのに…最悪だ。」
新は心底嫌そうにしている。本当にこういったお祭りごと嫌いだなぁ・・・でも毎回嫌々ながらも来てくれるから新は優しいなぁ。
そして龍牙は・・・すごく落ち込んでいる。そんなに落ち込まなくても。龍牙は大袈裟だなぁ。
「まぁまぁまぁ、2人共!とにかく着替えに行こう!!」
「「………なんでこんなことに。」」
見事にハモった2人であった。

「キャー見てみて!私化け猫だぁ♪」
「私は悪魔♪」
「私は雪女だよ♪」
みんな自分が着る衣装にはしゃいでいる。
コスプレ気分で楽しいんだろうなぁ。
さてさて、私の着る衣装はっと・・・・・・・・・・え?
「…まぢですか…」

──────────。

「…おい龍牙。」
「何、新?」
「この衣装を振り分けた奴、凄いと思わないか?」
「そうだな。少し恨むよ…」
「俺はぶん殴って人生の半分、動けなくしてやりてぇよ。」
「あぁー。その気持ち分かるわー。」
「「…………………………はぁ。」」

──────────。

「男子の皆さーん!全員着替終わりましたかー?女子はもう着替え終わって中にいるみたいなので入りますよー!」
ガラッ。
男子がぞろぞろと教室に入ってきた。
「龍牙と新、私を見たらどう思うかな?」
少し不安を抱きながら2人を探していると
「あれ…いない?」
なぜか2人の姿が見えなかった。
どこにいるんだろう?
~♪~~~
「!」
突然携帯が鳴った。
メール?
開いてみると、龍牙からだった。
『俺たち、4階の空き教室にいるから来て!』
・・・・・何で?
不思議に思いながらそっと教室を出て目的地に向かった───。

・・・ここだよね?
私は今、龍牙たちがいると思われる空き教室の扉の目の前にいる・・・衣装を着たままで。
休みの日で人通りがないとはいえ、こんな格好もし誰かに見られたら恥ずかしいからね!
それにしても何度見ても似合ってないなー・・・絶対龍牙たちに引かれそう。
「はぁ………よしっ!」
コンコン。
「…さゆみか?」
新の声がした。
「うん、そうだよ。開けるね?」
ガラッ。
「龍牙、新。お待た…せ……って、え?」
空き教室の中は薄暗かったけど、奥の方に龍牙と新の姿が見えた。
そして私は驚いた・・・2人の姿に。
「え、な…ど、…えっ…」
「…あぁ。驚くのも無理ねぇよな。この衣装、選んだやつ絶対悪意があるようにしか見えねぇよ……な…って、はっ?」
「新、どうしたんだ…えっ?」
2人共、私の衣装姿に気付いたようだ。
「あははははは…気付いた?」
実は、今私が着ている衣装は何と・・・吸血鬼です。
そして龍牙たちの衣装も、吸血鬼です。
・・・・・何ということでしょうっ!!
「「「……………」」」
あれ?何この沈黙。やっぱり似合ってないんだよね。
「え、えーっと…」
分かってるよ?分かってるけど何か言って欲しかったなー!
「ごめん。ちょっと着替えてく…「「さ、さゆみ!!」」…はいっ!!」
着替えに行こうとしたら、龍牙と新が急に私を呼び止め、ズカズカと近寄ってきた。
「な、ななななな何!?」
ガチッ!
「さゆみ!」
「だから何!?」
新が鬼のような顔で私の両腕を挟み、睨むように私を見た。
何でそんなに怒ってるのよー!?
「…その格好、俺たち以外で誰に見られた!?」
・・・・・・・・・・え?
「…はい?」
「だから!その姿、俺たち以外で、誰に見られたかって聞いてんだよ!!」
「誰かって言われても、今日土曜日だから私たちのクラス以外誰もいないから見られてないよ?」
「じゃあクラスの奴らには見られたってことか!?」
「そういうことになるね。」
「「……………」」
シーーーン。
「龍牙、新…さっきからどうしたの?」
「…さゆみ。」
「何?龍牙?」
「本当にそうなのか?」
「何が?」
「その姿、見られたってこと…」
「うん、そうだよ?さっきからそう言ってるんじゃん。」
「…さ、最悪だ…」
龍牙がまるでこの世の終わりみたいに影が薄くなっていく。
「………ブツブツブツブツブツブツ…」
一方新は、ブツブツと何か呟いている。
「2人共、さっきからどうしたの?反応に困るんだけど………やっぱり似合ってないんだよね。」
「「…はっ?」」
「え?」
私の発言に龍牙と新は「お前、急に何を言ってるいるんだ?」みたいな顔で反応した。
その時・・・ピンポンパンポーン!
呼び出しの音が校内に鳴り響いた。
「「「?」」」
『えぇー、あっあっあ。ハロウィン楽しんでいる皆さん!これから校庭で楽しい楽しいハロウィンパーティーが開催されますので、至急集まってワイワイ騒ごうぜぇーーーーー!!!』
「「「!?」」」
「…これはさすがにめんどくさいな。取り敢えず中で終わるの待とうぜ。」
「そうだな。入ろ、さゆみ。」
「う、うん。」
バシャ─────。

──────────。

そして今に至る。
「…なぁ、さゆみ。」
「何?」
「…さっきの本気で言ってるの?」
龍牙は確認するように私に聞いてきた。
「うん、そうだけど…」
「………」
「…だってこの衣装可愛いでしょ?私なんかが着たら似合わなすぎて浮いちゃう。」
「「そんなこと(ないっ)(ねぇっ)!!」」
「!?」
2人は全力で揃って否定してきた。
「さゆみ、すっごく似合ってるよ!そしてすっごく可愛い!!」
「そんなネガティブ思考になるんじゃねぇ!!」
「………」
驚いた。2人が必死に褒めるから・・・
「…クス(笑)」
「「…っ!?」」
笑ってしまった。
「フフフ(笑)…あ、ごめんね。急に笑っちゃって………実はね、龍牙と新の衣装見たときビックリしたんだけど、すぐに嬉しい気持ちになったんだ。」
「…何で?」
「だって、一緒なんだもん!」
「一緒?」
「うん!……龍牙たちはその衣装をあまりよく思ってないんだろうと思うけど、私はね、すっごく嬉しいんだ。なんかやっと同じになれたんじゃないのかなぁって。」
「同じって?」
「………」
「…吸血鬼。」
「っ!?」
「………」
「私ね、いつも心のどこかで思ってたんだ。私も龍牙たちと同じ吸血鬼だったら一緒の気持ちになっていろいろと考えて助けれたのかも知れないのになーって思ってて…」
「…さゆみ…」
「………」
「まぁ、見た目だけじゃ何も意味ないんだけどね(笑)」
「………」
「……さゆみ。」
「…ん?何?」
今まで黙っていた新が口を開いた。
「…気にすんな。」
「え?」
何を?
「さゆみがいちいち考えることじゃねぇよ。俺らの気持ちとか手助けとかそんなもんいらねぇんだよ。」
「なっ…!?いらないって!そりゃあ迷惑かもしれないけど…」
「迷惑とかじゃねぇ。俺たちはさゆみがいればそれでいいんだよ。」
「え…?」
「明るくて、ウザイくらい元気で、それでいつも通り笑顔でいてくれればそれでいいんだよ。さゆみはさゆみだ…だから、気にすんな!」
「…新…」
「…何だよ?」
「照れてる?」
「うっせ…」
空き教室の中は薄暗くて良く見えないけど、新の顔、すごく赤い・・・恥ずかしいのにちゃんと言ってくれたんだよね。
「…ありがとう…っ!」
「…お、おう…」
「…ツンデレ新がデレた…」
「うるせー!誰がツンデレだっ!!」
ゴンッ!!
「イテッ!!何するんだよ!!」
「お前が急に気に触ること言うからだろ!!」
「お前がデレるのが悪い!」
「うるせー!お前が悪い!!」
「………」
あぁー・・・また始まっちゃった。
こうなるといつ終わるのか分からないんだよね。
「……っ…!……!!」
「っ!……!!」
はあ、仕方ないなー。
「…龍牙、新!喧嘩はダメっ!」
「………」
「…っ…」
「はい!謝る!」
「「…すみませんでした。」」
よしっ!おっけい♪
「………」
「………」
ギュッ。
クシャ。
「わっ…!?」
急に龍牙が私の右手をギュって握ってきて、新が私の頭をクシャクシャと撫でてきた。
「「「………」」」
2人共私と目を合わそうとせず、そっぽを向いていた。
「………」
そして龍牙と新は、耳まで真っ赤になっていて、私は2人にバレないように静かに笑った─────。

今年のハロウィンは、なんだかんだ楽しかったなぁ。最後の龍牙と新の照れてた顔を可愛いなと思ってしまったことは、内緒にしておこう・・・♪