空は曇っていて、夕方の喫茶店で憂鬱なはなし。
彼氏は“別れよう”と切り出し、彼女はなぜなのか分からず泣いた。
ウェイトレスは最初、二人を幸せなカップルだと思った。
そして少し前まで付き合っていた恋人との時間を重ねてみていた。
でも、“ふざけないで”、“どうして?”と突然彼女の大声がした。
マスターは寡黙にグラスを磨いている。
そして、外は雨が降り始めた。そんなお話。


“別れよう。”

少し呆然として彼女は彼の目を見た。
人生で誰もが何度かの経験を持つ。
こんな眼を恋人がする時は決まって別れ話。
“どうして?”と聞こうか、“嫌だ”と言おうか。
彼女は心の準備が出来ていない。

付き合って三年というのは、三年以上は失恋していないと言う事だ。
あぁ、そうでない時も場合によってはあるのかな。
どうにかしなきゃと言う思いと、現実逃避のような思いとで彼女が選んだ言葉は“どうして?”だった。
精一杯穏やかに言ったつもりだったが、それが怒鳴って聞こえるのか情けなく聞こえるのか。
とても余裕はなかった。

“君の事は今でも好きだし、感謝している。”

“それでも、ふとしたちょっとした時に何か不安になるんだ。”

“僕の中で君は大事な存在でありすぎる。その事が怖くなる時がある。”

まだまだ彼の説明は続くが、良く分からなかった。
必要としていると言っておきながら、その事が怖くなる。
どんな流れでそう言う事になるのだろうか、彼女にはそんな経験は無い。

恋人の事を大切に思って、思われて。
それはとても良い事で不安になったり怖くなったりすることは無い。
失う事が怖いということなのだろうか、とも思ったが違うと言う。

“もし、何かあったときに全然頼りない男になってしまいそうでそれが怖い。”

と彼は言う。
その主張も理解できるものではなかったが、これから二人で解決していける。
二人で乗り切ればいいのに、何を言っているのだろう。
結局何か隠しているんじゃないか、遠まわしに私は駄目だと言われているのではないか。
これが彼女の気持ち。
彼女の不安は強くなるばかりだった。

外の雨が降る音。
その単調な音が余計に不安を駆り立てた。