彩瀬に肩を貸すような格好で、私たちは廊下に出た……実際は単に彩瀬にしがみついていただけだが。

ナースステーションで夜勤の看護師さんに声をかける。
「すみません、兄がトイレでこけて動けなくなってました。入院病棟に連絡してもらえますか?」

それからのことは、あまり思い出したくない。
彩瀬は、警察に怒られ、病棟の婦長に怒られ、当直の医師に怒られたけど、痛々しいギプスと反省の涙であっさり許された。

しかし、両親は私に激怒した。
……不安から解放され、やり場のないストレスを私にぶつけたのかもしれない。

彩瀬を見つけたのは私のお手柄と他の大人達が取り成してくれても、両親の叱責はおさまらなかった。
最終的には、いつも通り、彩瀬が身を挺してかばってくれた。

世の中は、理不尽だ。
彩瀬は被害者なのに……。


翌朝、彩瀬は病院を追い出されるように退院して、自宅に戻った。
私はいつも以上に彩瀬にべったりとくっついて夏を過ごした。
彩瀬の手足はますます白く細くなってしまった。

夏休みが終わり、日焼けした生徒が多いなかで、元々色白の彩瀬の白さは透き通るように美しかった。
……これは……やばい。
また、彩瀬が毒牙にかかってしまう……。

私は彩瀬を守るべく、毎日登下校に付き添った。
仕方なく合間に小学校にも顔を出すようにしたけれど、あいかわらず浮きまくっていた。
授業はおもしろくないし、クラスメートも教師もレベルが低いし、結局、図書館と保健室で過ごすことが多かった。


春が2回巡り、やっと私も中学生になった。
彩瀬ほどではないが、誰もが「美少女」と認めざるを得ない外見に成長した私は、懸想されることが増えた。

特に、別の小学校から来た男子には、勝手に「病弱で内気な美少女」と思い込む者も多かったようだ。
実際は、彩瀬以外には何の興味もない、ただの歪んだ美少女でしかなかった。

中学のいいところは、お昼をどこで食べても咎められないこと。
私は登下校のみならず、お昼休みも彩瀬を独占した。
誰に何と言われようと、他の者を寄せ付けないようにしたつもりだった。

しかし、成長するにつれて、彩瀬は女性からも言い寄られることが増えたらしい。
彩瀬のシャツや首元にキスマークを見つけたり、やたらきつい残り香を感知することがあった。

もちろん彩瀬は私には何も言わない。
言わないけれども、妙にけだるそうだったり、目をそらしたくなるほどの色気がだだ漏れになるので、すぐわかった。

……どれだけ想っても彩瀬は私のものにならない。
まざまざとそれを見せつけられ、思い知らされる。

くやしくてくやしくて、私は独りで泣いた。