「で?うちのクラブ、どう思った?」
碁石を片付けながら頼之さんが私に聞いた。

「どうって……私、サッカー全く知らんし。それ踏まえてな。たぶん頼之さん以外は……可も不可もないというか……」
私は言葉を濁した。

ハッキリ言って、頼之さんのワンマンチームだ。

頼之さんは、ちょっと笑った。
「……多少は底上げできたって思とくわ。先輩らがいた時は不可だらけやったからな。この数ヶ月で基礎力は上げた。とりあえず一通りのことはできるようになったと思う。」

「一通り……。そうね。身体は動いとーけど、頭を使ってへんように見えた、頼之さん以外。だからワンマンチームに見えたんか。」
頼之さんは私の言葉にうなずいて、口を開いた。
「個人技術はこれからも上げていけると期待するとして、作戦でちょっと悩んでて……」

まさか……

「将棋とサッカーを応用するとか、チェスとサッカーを応用するとか、いろいろ試してみたけど、何となくサッカーの場合は囲碁が近い気がしとーねん。」
……頼之さん、充分サッカー馬鹿や。

「……指導者、いいひんの?頼之さん、プレイヤーやろ?監督とかコーチが考えよーことちゃうん?」
「一応いる。サッカー経験のない顧問と、脳みそまで筋肉みたいなコーチ。あれじゃ頭打ちやから。」

きっつ~。
でも、ちょっとわかってきた。

「それで頼之さん、真ん中におるんやね。効率性考えたら頼之さんは最前線でゴール決めるのに徹したほうがいいように思ったから。」
「ハーフコートやったからそう見えたか?でも実際はあの倍の広さでボール取り合うから。」
「……そっか。最前線で待っててもボールが回って来ぉへんのか。」
頼之さんは神妙にうなずいた。

「独りで動き回ったらあかんの?真ん中からゴール前まで。漫画みたいに。」
私の質問に、頼之さんは苦笑した。

「1人対1人なら、そうするけどな。相手も11人いよーしな。」
「なるほど。でも今のままじゃ、徹底的に攻撃力不足な気がする。」
「……佐々木、覚えてるか?」

ささき?
そんな部員名は見てないはず。
私は、パラパラとノートをめくった。

「いや、そこにはのっとらん。今日来とった中学生。」
ああ、おったおった。
「あいつが攻撃の要(かなめ)になる。」

へ?
線の細いまだ少年っぽかったあの子が?
「でも受験で落ちる可能性もあるんよね?」

頼之さんは唇に人差し指をあてて言った。
「あいつは、スポーツ推薦のさらに特別枠でほぼ内定。ほんまに早く練習に合流してほしいんやけど、内緒の話やからなあ。」

あ~……そういうこと。
彩瀬を受け入れてくれた高校のこと、他にも特例はあるのだろう。

「……私は見とらんから佐々木の実力は頼之さんの期待値通りやったとして……そうね。王様を追い詰めるチェスや将棋より囲碁に近いかも。」
つぶやくようにそう言ってから、私は頼之さんの目を見て続けた。
「でも頼之さんが最前線の人ならチェスや将棋やったんちゃう?囲碁に行き当たったんは真ん中でゲームを組み立てるからやろ?」

そして、ちょっと笑ってしまった。

「もし、頼之さんが11人いたら、五目並べでいけたのにね。」

頼之さんは苦笑したけど、何も言わなかった。