「触ってみてくれませんか」
「いいよ」

腕を枕にして寝る彼の艶のある黒髪に呟きにも似た私の声は落ちた。そよそよと窓から入った風が君の髪を遊ばせて。普段全くと言って良い程自分に触れようとしない彼に、心の奥で息を潜めていた欲が零れ出て来た。聞こえるわけが無いのにーー。

「寝てたんじゃ…」
「寝てないよ。目え瞑ってただけ」

のそっと上体を起こした彼は平然と言って退けるけど。そんなバカな。驚きで声が震える私に彼の細い指が伸びてほっぺを撫でた。柔らかいね。風に乗せたその声が鼓膜に響く。いきなりの展開に脳が正しく指令を出してくれない。

触るよ、頰を撫でるその手が下へ伸びてネクタイをいとも簡単に解いてしまう。そのままボタンに手を掛けようとする彼の腕を掴む。

「な、何してるんですか」
「は?何言ってんの、そっちが触ってって言ったんじゃん」

いや言いましたよ言いましたけどね。いきなり彼女のシャツ脱がそうだなんてセクハラじゃないですか。

「兎にも角にもダメです…」
「君さあ1分前に自分が言ったこともまともに憶えてられないの?黙って顔赤くしてなよ」

私の鉄壁のガードを取っ払って一つ、二つとボタンを外され谷間が見えるか見えないかギリギリのところまで肌蹴られた。

「良い身体してるね」
「な、何を…」

明け透けな彼の発言に首から上が熱くなるのを感じる。顔を近付けどこ触って欲しいか言いなよ、なんて。いつも使ってる彼の香水の匂いが嗅げる距離にじわじわと顔が熱を持つ。その顔の熱を隠すために唇を重ねた。ああ、いけない。唇が触れた瞬間に改めて自覚する。この人のことが好きだと。

「キスしたかったの?」

唇を放してほんのり頰を染めた君に照れ隠しの意味も込めて曖昧に頷いてみせた。上気した彼がある一点を見つめ唇の端を軽く吊り上げる。

「折角なんだし堪能しないとね」

肌蹴られた胸元に唇を寄せ甘く囁く。

もっと触って欲しいって言ってみなよ。


終わり