カカオ70%とかのチョコレートってあるじゃない?

私はあれ、大嫌い。

甘くて美味しそうに見せかけといて、苦いばっかりでちっとも美味しくないもん。


学生時代の私が憧れた人はそんなビターチョコレートのような男だった。




「お疲れさまでーす。お先に失礼します」
終業時刻から30分だけ残業して、いつもよりずっと早く私は席をたった。

「お、マミちゃん。今日はデートか何か?」
前の席に座る先輩が軽口をたたく。

「残念ながら、大学時代の友達とただの飲み会です。 デートだったら、終業ベルと同時に帰らせて貰いますよ〜」

笑いながら、私はオフィスを後にした。


今日は大学時代に所属してたサークルの飲み会。 まだ卒業して間もない事もあってか、私達は時々集まっている。

今日は上の先輩達もたくさん来るみたいで、私は朝から結構楽しみにしていた。

混雑する渋谷駅のハチ公口を出て、学生時代にもよく通っていた居酒屋ののれんをくぐる。

「マミ〜。こっち、こっち! 久しぶり〜」
仲良しの美咲が隣を空けてくれる。
1ヶ月ぶりだから、社会人としてはちっとも久しぶりじゃないんだけど、私達はそのくらい仲が良かった。

バラバラと人が集まりはじめて、みんなが自由に席を動き始める。

「よっ、マミちゃん。久しぶり!
相変わらず美人だね〜」

「大介先輩!! お久しぶりですね」

大介先輩はいかにも体育会系といった見た目と性格の人で、実際高校まではラグビー一筋だったらしい。
何で映画鑑賞サークルに入ったのかは今でも謎だけど、面倒見のいい先輩でとてもお世話になっていた。

大介先輩とお互い近況報告をした後に、
私はこっそり聞いてみた。

「今日、昴先輩は?」

「遅れるけど、来るって言ってたよ。
マミちゃん、まだアイツ狙ってんの?」

大介先輩が呆れたような顔をするので、
私はむっと頬を膨らませた。

「全然っ。もうすっかり目が覚めましたから。 私、最近エリートで優しい彼氏ができたんで昴先輩に自慢してやろうと思って」

「あははっ。嫌われたな、あいつ」

「嫌ってませんよー。昴先輩のおかげで男は顔だけじゃダメだって気付けたから、感謝してるくらいです」

「そりゃあ、良かった。 けど、久我原はマミちゃんに何したんだ?」

こういう話を第三者に話すのはマナー違反なんだろうな。


けど、昴先輩だって相当私に失礼だったんだし別にいっかな!

もう時効よね。