「えっ、今日は三人だけなの? みんなも来るのかと思った」

瑶の言葉に大介がうなづく。

「それがさー、何人か誘ったんだけどダメだった。就活が本格化してくる時期だしね〜仕方ないよ。
だから、瑶ちゃんいっぱい食べてね」

もっともらしく話してるけど、本当かどうか怪しいもんだ。

大介は俺と瑶の微妙に気まずい関係を心配してるのか面白がってるのか、やたらと一緒に過ごす機会を増やそうとする。

このところは特に頑張っていた。

そのおかげか、最近は瑶と二人きりになってもわりと普通に話ができるようになっていた。

「あ、本当にいいお肉だね。 すき焼きなんていつぶりかなぁ。美味しそう」

テーブルに用意されている牛肉に瑶が目を輝かせた。
実家からいい肉が届いたから、すき焼きパーティーをしようという大介の誘いで、俺と瑶は大学から徒歩圏内の大介のアパートに遊びに来ていた。

大きな鍋の中に、春菊、しらたき、豆腐、ネギが綺麗に並べて入れられていた。
ラグビー部出身の大介が合宿の度に作らさせられた鍋だけは得意だと言うので、今日はお任せだ。

2月の半ば。
窓の外はどんよりしていて、今にも雪が降り出しそうな寒さだった。

グツグツと鍋が煮立つ様子を三人でじっと見つめる。


大学に入学してすぐの飲み会で、瑶の姿を見つけた時は自分の頭がどうかなったんじゃないかと本気で疑った。

もう会う事はないと思っていた。

両親の離婚後、瑶は母親と大阪に行った。 だから、俺は瑶はそのままずっと大阪で暮らすのだろうと思い込んでいた。

もし神様がいるのなら、どんな偶然だよって言ってやりたい。

大阪にも東京にも星の数ほどある大学の中から俺と瑶が同じ学校を選び、
これまた星の数より多そうなサークルの中から同じサークルに入るなんて。

血の繋がりもない上に仲良し兄妹でもなかった俺達は無邪気に再会を喜び合ったりできなかった。

瑶は当然俺を嫌っているだろうし、俺の方も瑶といると、どうしたって、かつての自分の愚かさを思い出して苦い気持ちになる。


大介が他愛もない話を饒舌に語り、俺と瑶が相槌をうつ。いつもと同じだ。

ビールと酎ハイの空き缶が増えていった。

ほどほどに腹がふくれ、酔いがまわったところで大介が切り出した。

「瑶ちゃん。余計なお世話は承知で聞くけどさ、高橋に告られたってマジ?
なんて答えたの??」

その話は俺も、というよりサークルのほぼ全員が知っていた。
高橋自身が告白しようと思いますって宣言してたからだ。

高橋は同じサークルの一年だ。
客観的に見ても、いい奴だと思う。

育ちの良さがよくわかる、裏表のない根っから明るいタイプだ。


瑶に対しても、まっすぐに後ろ暗いところのない純粋な愛情を向けていた。

俺の持つ歪んだ独占欲とか征服欲とか、アイツは絶対に持っていないだろう。


「まだ保留にしてもらってる」

「保留ってことは嫌ではないってことだよね??」

「うん、私にはもったいないくらい良い子だもん」

はにかんだように笑うその顔を見て、俺は瑶はきっとアイツと付き合うんだろうなと思った。

その後は何を話したのか、あんまり覚えていない。
時々、大介が哀れむような目で俺を見ていた。

瑶はずっと楽しそうにしていたと思う。