「詩織ちゃんったら……そんな事言ったら、あなたは速水君を好きって事になるわよ? 好きなの? この怒り虫の鬼課長の事」


 野田よ、いきなり核心に触れるか? 俺が聞きたくても聞けてない、その答えに……!

 俺は口に含んだ水割りを、ゴクッと音を鳴らして飲み込み、高宮の答えを待った。俺の心臓はバクバクと、その存在を盛大に主張していた。


「好き、というのは……違うと思います」


 ガーン

 と、本当に音がしたと思った。誰かに、この場合は高宮って事になるが、頭を思いっきり殴られた気がした。

 高宮が俺なんかを、とは思っていた。思ってはいたが、もしかすると……という淡い期待も、俺は持っていたんだ。あんなにくっ付かれたりしたら、誰だって期待してしまうと思うんだよな。

 高宮よ。だったらなんで、思わせぶりな態度をとるかなあ。


「だよね? びっくりさせないでよ、もう……」

「あの、誤解されたらごめんなさい。私、課長の事は好きですよ?」

「えっ?」


 えっ?


「あ、ああ、あれね。likeでしょ? そうね、その意味なら私も好きよ。っていうか、憎めないタイプよね、速水君ってさ」

「チッ。それはどうもどうも。光栄にござんす」


 俺はわざとおちゃらけて、一瞬だがドキドキした事を知られまいとした。野田が言わなければ、俺は高宮の言葉を真に受けるところだった。そんなわけないのに。

 しょせん俺はむさい40男で、怒り虫で、人間嫌いの女嫌い。見た目25、6の超絶可愛い高宮に好かれようなんて、虫が良すぎる話なんだ。俺の気持ちは、これからもずーっと封印だ。くそっ。


「loveだと思います」

「えっ?」


 えっ?


「でも、私にとって、それは大きな違いではないんです。だって私は、課長のために生きてきたんですから」