という事で俺は考えた。せっかくの社員の待遇を、高宮が放棄しなければいけなかった理由を。


「人間関係か?」


 とりわけ女性の場合、この理由が一番多いのではないかと思う。上司と馬が合わないとか、同僚からの虐めに耐えかねて、とか。特に高宮の場合、脚の事で虐めにあった可能性は否定できないと思う。ところが……


「違います」


 高宮はあっけなく、しかもきっぱりと否定した。


「じゃあ、引っ越したとか?」


 これも、退職の理由としては案外多いのだ。すると高宮は、俺が言った途端、目を見開いた。つまり、ハッという顔をした。

 当たりだな。そう思ったのだが、


「それも違います」


 当たりじゃねえのかよ。今、確かにおまえが反応したのを、俺は見たんだぞ?

 だが、嘘をついてるようには見えないし、だったら理由は何なんだ?

 うーん……やめた。時間がもったいないから、もうこの件はいいや。


「わかった。もう聞かない。だが、1年で辞められたら困るから(会社も、俺も……)、それだけは言っておく。いいな?」

「はい」


 さすがに元気よく「はい!」ではなく、低い声で「はい」と高宮は言った。ただ、高宮は申し訳ないという感じではなく、がっかりしたように俺には見えたのだが、それは気のせいだろうか……


「俺からの質問は終わり。次はおまえの番な? 俺に聞きたい事って、何だ?」


 他にも高宮に聞きたい事があったような気もするが、この際、それは後回しだ。

 高宮が俺に聞きたい事とは、いったいどんな事なんだろうか。俺は内心ドキドキしながら、高宮の言葉を待った。