何も目にしたくなくて、うつむきながら歩いた。
フロアの中に戻りたくないけど、長谷川君の手を振り払って逃げ出す元気は今のあたしにはない。
もう、どうにでもなれ。
どうなってもいい。
どこにいたって、ツラいのは同じなんだから。
「ほら、入って」
腕を引かれて入ったところはクラブの奥にある個室だった。
個室といっても中はかなり広くて、コの字型のソファーや大型のテレビや冷蔵庫まで置いてある。
トイレやバスルームまであるみたいで、まるで誰かが住んでる部屋みたい。
「な、なにここ……」
なんでクラブの奥にこんな部屋があんの?
ベッドまで置いてあるし、誰かが住んでるとか?
「ここが俺らの溜まり場。今日はたまたま鍵を忘れたから、裏から入ったんだ。ホントの入口は向こう」
そう言って長谷川君が指差したのは、あたしたちが入って来た真向かいにある扉。