「では、これを」
奴隷商人さんは、金貨が入った麻袋を父に渡し、一緒に取り出した手錠を持って私に近づいて来た。
「手を」
今から私は奴隷。
「今まで育ててくれてありがとうございます」
ペコリと頭を下げたが、聞こえていないようで麻袋の中身を確認して騒いでいる。
父と母はもう私には見向きもしない。
金貨5枚という大金に釘付けで、何に使うかを話し合っている。
分かっていたことだから、悲しくはない。
けれど、どうにもすることが出来ないモヤモヤが私の胸を蝕む。
これはきっと、虚しさ。
ーーどうして私は産まれてきたのだろう。
両親の望む子どもになれなかった罪悪感。
最後まで私の目を見て貰えなかったのだ。
これでこの家は見納めだ。
ボロボロで、所々に物をぶつけた後があって……産まれた時からずっといた私の家。
いつの日にか、この家を懐かしいと思える日が来るのだろうか?