あの日、翔は、携帯の番号を交換することと引き換えに、アユを元の駅まで送ってくれた。


翔からのメールが届くようになったのは、それからだ。

1日に1,2回ほど、くだらない内容のそれが届き、仕方がないからアユも適当に返事を打つようにはしている。



別に好きになったとかではないけれど。




夏休みはつつがなく過ぎて行く。



それは、夏休みも残り10日を切った、ある日のことだった。


その日はケイと、勉強会と称してカフェに集まった。

もちろん勉強などそっちのけで、関係のない話に花が咲くわけだが。



「アユちゃんさぁ、カレシ作ればいいのにぃ。美人なのにもったいないと思うんだけどなぁ、私」

「別にいいよ、そんなの。興味ないし」

「またまたぁ。アユちゃん、いっつもそう言ってるけど、ほんとは好きな人いるんじゃないの?」

「何でそうなるのよ」

「だって、さっきから携帯ばっか気にしてるよー」


言われて驚いた。

アユは慌てて、テーブルの上に置いていた携帯を、バッグにしまった。


確かに、翔からメールが来るようになって以来、よく携帯を見るようにはなったけれど。



「そ、そんなんじゃないよ。時間を確認してただけで」

「腕時計してるのに、わざわざ携帯で?」


鋭すぎて、アユもさすがに答えに窮してしまった。


普段はおっとりしているケイだが、こと恋愛に関してだけは、やたらとアンテナを張り巡らせているらしい。

ケイは曖昧な顔しかできないアユに、前のめりに聞いてきた。



「誰からのメールを待ってるの?」

「べ、別に私は」

「いいじゃん、いいじゃん。言っちゃいなよー。悪いことしてるわけじゃないんだしぃ」