美樹本さんには完敗したものの、俺はちっとも悔しくなく、むしろ希望の光が見えた気がして嬉しかった。なぜなら、美樹本さんから重大なヒント、というより答えそのものを教わったと思うからだ。

 と言っても、別れ際にあの人から言われた意味不明な言葉は関係ない。あれはどう考えても理解不能なのでスルーだ。あの人から教わった答え。それは……

 チーフを説得すれば、美樹本さんとの不倫は解消する、という事。

 だが、どうやってチーフを説得するかが問題だな。美樹本さんみたいに正面から対決すれば手っ取り早いだろうが、それは断固NGだ。

 そもそもチーフと対決するのが目的ではないわけで、真の目的は、美樹本さんとの不倫をやめてもらいつつ、徐々にでよいが、俺に興味を持ってもらう事だ。もちろん男として。

 そのためには、俺は彼女の不倫については知らない事にすべきなんだ。なぜなら、 俺に知られたとわかれば、俺と彼女の関係はぎこちないものになり、いつまでもそれが尾を引くだろうからだ。それだけは何としても避けたい。

 だが、知らないはずの事をやめるように説得する、なんて器用な事が出来るんだろうか。うーん、それは無理だな。では、どうするか……


 職場に戻ってからも、俺はそればかりを考えていた。そしてしばらく経ち、ようやくある結論に達した。それは……


 物理的にチーフが不倫出来なくする、という事。


 具体的には仕事の後の夜、俺がずっとチーフに付きまとえばいいんだ。“付きまとう”という言葉は、あまりいい響きではないが、この際気にしない事にしよう。“ストーカー”という、もっと嫌な言葉が脳裏をかすめたが、それは敢えて忘れよう。

 少々強引すぎる気がしないでもないが、これしか方法はないと思う。