その日の午後。パソコンで今日の打ち合わせの議事録を書いていたら、一通の社内メールが届いた。差出人を見ると、“田中美鈴”という人からだった。

 田中という苗字に知った人はいるが、美鈴さんには覚えがない。いったいこの人は誰で、どんなメールだろうと思いながら開いてみたら……


『総務の田中と申します。少しで良いので、お時間をいただけますか?』


 という内容だった。総務の田中さんかあ。記憶を手繰り寄せようとしたが、何も思い出せない。たぶん全く面識が無いと思う。そんな人が、俺に何の用事なんだろう。総務って事は、税金の事とか、そういう話だろうか。

 何だかわからないが、「いいですよ」と返信をすると、『喫茶室で会いましょう』と、すぐに返信が来た。

 仕事の話を喫茶室でするものだろうか。そんな疑問を抱きつつ俺は席を立つと、「ちょっと外します」と齋藤チーフに告げた。


 エレベーターに乗り、結構な距離を歩いて喫茶室へ行くと、窓際の席に座っている女性が、俺に手を挙げて合図を送って来た。その女性が田中さんだと思うが、やはり面識はなかった。