「陽菜、おはよう! いよいよ明日だね!」



朝、教室のドアをくぐると、志穂が浮かれた口調、今にも踊り出しそうな軽い足取りで、ハルの元へとやって来た。

そのまま、「おはよう」と朝のあいさつを交わし、ハルの席へ向かうと志穂もついてきた。



「もう、明日かぁ」



穏やかな笑みで応えつつ、オレはハルの心中が少しばかり複雑なのを感じていた。

明日から高校の修学旅行。うちの学校では、高2の秋と決まっている。
ほとんどの人間にとっては待ち遠しい、高校生活3年間でも1、2を争う人気イベント。

だけど、夏の検査入院で色々と心配な問題が出たハル。問題はあるけど、手術をするのも微妙なラインと言うことで、薬だけが何種類か増えてしまった。

避暑地で過ごした夏休みには上向いていた体調も、9月の残暑には勝てず、現在、完全に低空飛行。

日帰りの遠足ですら乗り物酔いや疲れでフラフラになるハルは、そんな状態で、5泊6日を耐えられるのかと心配していた。



「欠席した方がいいのかな」



と、オレの前でだけ、一度ハルはつぶやいた。
もちろん、即座に否定したけど、ハルの不安は消えなかった。

何かあると厄介な心臓の病気だけに、最善を期して、じいちゃんの手配で看護師さんの同行も決まっている。
裕也さんが来たがっていたらしいけど、さすがに5泊6日は抜けられなかったらしい。

そんな学外からの同行者の存在も、ハルの心を重くしているようだった。



「しーちゃん、えっと……」

「ん?」

「わたし、色々と迷惑かけちゃうかも知れなくて……。ごめんね」

「やだ、陽菜ってば、まだ何も起こってないのに、謝んないでよ」



志穂はカラカラっと、ハルの不安を笑い飛ばす。