「お大事に」


薬を受け取り帰っていくお客様に頭をさげる。


高校2年生になったわたしが最近始めた、魔法薬局でのアルバイト。

業務内容は、魔法薬師が依頼人のために調合した魔法薬をその人に渡したす事務的な仕事だったり、局内の清掃活動なんかの雑用をやったりするくらい。

魔法薬局で働くからと言って、魔法薬の生成ができるわけじゃないんだ。

魔法薬を生成し、それを販売するには国家資格がいる。

そしてその国家資格、国家魔法薬師の資格を得るためには超難関のアカデミーを卒業しなければならない。


ちなみにこのこじんまりとした薬局の従業員は、局長とバイト2人だけ。

わたしともう一人、同じ高校の後輩、ロイ君だ。


ちらりと視線を横に移す。


ロイ君は箒(ほうき)を持って薬局内の掃除をしている。


ロイ君は学年首席、しかも満点合格を果たした秀才として校内では有名だ。

クールな雰囲気、整った顔立ち、すらりと高い身長。

女の子が騒がないわけがない。


「リアちゃん、ロイ君、お疲れー」

「あっ、ターシャさん!」


お店の奥から現れたのは、この魔法薬局の局長のターシャさん。


すらりとした身長に、サラサラとした腰まで届くほどの美しい黒髪と麗しい切れ長の漆黒の瞳。

黒いシンプルなロング丈のワンピースに白衣をさらりと着こなしている。


本当にかっこよく美しい女性だ。


若く美しい容姿に、群を抜く魔法薬についての技術と豊富な知識。

性格も難はなく、誰とでも親しく話ができる。

何でも器用にこなしてしまうお人だ。


ただひとつ問題があるとすれば。


「ふわーあ…」


「ターシャさん…また寝ていたんですか? もうお昼ですよ」


朝も昼も営業時間も関係なく、店の奥に引きこもっては寝ている、ということだ。


こじんまりとしているこの薬局は、お客様も多いわけじゃないから、ターシャさん1人でも十分にやっていける。

それにも関わらずバイトを2人も雇っているのは、こうして引きこもっていつでも寝られるようにするためだと、いつだったか酒に酔っ払ったターシャさんは言っていた。

まったく、現役の国家魔法薬師としてどうかと思う発言だ。