俺の名前は 暮野 兎鬼 (くれの とき)、


吸血鬼の末裔(まつえい)だ。


でも、それがすごく嫌。


母親は酒ばかり飲んでは


夜の街で男を引っ掛けるような女だった。


俺だって吸血鬼との間に偶々孕んだ子





偶々。





吸血鬼に生涯を捧げた母親は、


酒を求める身体から、


牙を求める獲物(エサ)へと変わっていった。


少しは吸血鬼の血を受け継いだ俺は、


徐々に血を求める身体へと成長していった。


そのただならぬ衝動を我慢し続けてきたが、


限界が来たのは高校生になった2年程前。


日中は気怠い太陽に苛まれ、


とてつもない睡魔に襲われ、


血の匂いを嗅げば


身体の奥底をくすぐられるような


嫌な気分になる。



何より夜はもっと嫌いだ。






俺が俺のままでいられなくなる。





血を求める衝動に駆られて、


誰かに牙を向けるのではないかと抑えこむ。


血を求めて抑え苦しむ。


だから俺は、紅葉が好きだ。


血の色みたいで


ゆらゆらと自分勝手に揺れている。


そんな場所に現れてしまったのが





あかねだった。





初めて知ったその味に俺は酔いしれた。


許されないと思っていても


止められないこの衝動。


俺の覚醒だった。





俺は…俺が怖いんだ。








次の日もあかねの首筋の傷は痛み出した。





「っ…」





あかねは思わず首筋を押さえた。





「…あかね?どうしたの?大丈夫…」





友達の都笠(つかさ)が心配そうに言った。





「ぅん…っ…、大丈…夫っ……」





「大丈夫じゃないよ!!

     保健室行こ!あかね…」





都笠はあかねの手を引いて、




教室から連れ出した。





変だ。




まだ昼間なのに…。



体が…あの男を求めてる。



そんなこと絶対にあっちゃ…いけない。





「あかね?…どこ行くの?」





「え?…」





ふと気がつくと、あかねの足は




校舎裏へと向いていた。




あかねは都笠に手を引かれ保健室に向かった。





もう、体の自由まであいつが奪っていく。




こんなの、もう…嫌だ。





「んじゃ、あたしは戻るね。

   先生1日居ないみたいだから、

         また見に来るから!」





そう言って都笠はそっとカーテンを閉めた。





…痛い。




何なのこの気持ち…




何かを求めるような、誘われるような。








あの場所に行きたい。







あいつの……トコロニ…